従業員のピンチ、でも、誰も金がなくて パート1
40代フリーター従業員の貞方さん(仮名)の田舎のお母さんが危篤という連絡が、貞方さんが店で働いている時に入った。
まだ、私はかなりの新人で、その日は店に店長はいなかった。
誰かが店長に電話をかけて私と代わった。
「スケジュール調整任せるぞ」
「はい。了解しました。」
貞方さんが電話を代わってくれと言ったので、代わると店長にお金がなくて田舎にいけないと相談した。
店長もプライベートで自宅ではなく遠方にいて、今日は貸せないので他の従業員から借りて、
後日、店長がその従業員に返して、店長から借金する形にするように貞方さんに言った。
再び私に電話が渡されて、絶対に店の金を渡さないように釘をさされた。
「もちろん、わかってます。」と返答した。
いつも陽気な貞方さんはあきらかに動揺してウロウロしていた。
誰が貸してくれて誰が貸してくれないかわからないからだ。
貞方さんは私の方をみた。
私も真っ先に貸してあげたかったけど、財布の中には1万円もなくて、
キャッシュカードが家にあるので今すぐといわれても貸せない状況である。
しかも夜まで休憩がないので家に帰るわけにもいかないし、
しかも、休憩時間だけでは家に帰ってお金をおろして戻ってくる時間もない。
「ごめんなさい。今日、手持ちがなくて、家に帰ってキャッシュカードでおろせば都合がつくんだけど、明日だったら全然大丈夫なんだけど」
また、貞方さんはキョロキョロし始めた。
おばちゃんたちも視線を合わせようとしない。
交通費なんかを考えて最低、3万くらい必要である。
パートの主婦がポーンと旦那さんに相談もなしに貸せる金額ではない。
しかも、貞方さんはパート主婦たちからあまり好かれていない。
とりあえず、スケジュール調整だけは私がやって、貞方さんの一週間分のスケジュールを消して、
今日、明日の分は私をメインにカバーすることに成功した。
後の分と調整は店長に任せることとした。
貞方さんは着替えて控え室にいた。
頭を抱えて椅子に座り俯いていた。
見ていられない状況である。
おばちゃんの一人が言い出した。
「店のお金を借りるのは駄目なの?」
私は厳しい表情で「絶対駄目です」と毅然と言った。
おばちゃんもハッとした表情で「そうよね」と自分の発言は間違いでしたというような感じで言った。