エスカルゴを注文するカップル
ピンポーン!
窓際のボックス席のカップルがピンポンを押した。
ちなみにピンポンの正式名称はピコルらしい。
「はい、ただいまお伺いします」と言い、ピコルが鳴る席にお伺いした。
襟の高い白い長袖シャツを着た眉毛をかなり細く剃って、髪の毛を三角に立てた20歳くらいの男子と
見事なまでに金色に染めた20歳くらいの女子のカップルだった。
女子のほうはつまらなさそうに窓の外を眺めている。
男子のほうが細い目でニヤニヤしながら口を開いた。
「うん。それと飲み物はペリエでいい。二人とも同じものをいただこう」
まるで三文芝居に飛び入り参加させられた一般客のような棒読みの台詞のように三角は言った。
「申し訳ございません。当店はファミリーレストランですので、メニューにないものはご提供できない次第で。。。」
「うん。そうか、それなら仕方ない。三ツ星の星が泣いてるぞ」と言った後、三角は普通にメニューにある料理を注文した。
彼女のほうはそのやり取りの間、ずっとつまらなさそうに外を眺めていた。
私が注文をとり終え、パントリーに入るときに振り返り席のほうをみると二人は顔を合わせてニヤニヤしていた。
その1時間くらい後に彼らの友人らしき同世代の男子が二人加わり、また呼ばれたときに同じようなやり取りをした。
彼らがお帰りのレジ会計の後、三角が再び顔を作ってこう言った。
「ムッシュ、また来るぞ。精進して星を落とぬようにな」
私は通常、会計の後、「ありがとうございました」と言うのだが、この時ばかりは何も言わなかった。
それが私の小さな抵抗だった。。。